War Museum, Athens Greece
アクロポリス博物館や国立考古学博物館といった有名な博物館と並ぶアテネ戦争博物館。アテネ市内中心部シンタグマ広場からのアクセスも良く、先史時代から現代までのあらゆる種類の武器が展示されたギリシャ最大の軍事史博物館であり、ギリシャ軍で運用された航空機の一部が野外に展示されている。
戦史ファンは必見
1975年7月にオープンしたアテネ戦争博物館は、大きく二つの展示スペースに分けられている。第一の展示室は、石器時代に使われた原始的な武器や青銅器時代初期に発見された古代武器に始まり、国民革命、1821年のギリシャ独立戦争、マケドニア闘争(1904-1908年)、バルカン戦争(1912-1913年)に焦点を当てた武器展示が時代毎に見学できる。特に4世紀にわたるオスマン帝国(現:トルコ共和国)による占領後、独立闘争に関わる陸と海での戦いを紹介する数多くの遺物、絵画、彫刻が展示されている。また、ギリシャの人々の解放を示す写本、銃器、鋏などの刃物も数多く展示されており、教科書で目にした歴史上の重要な出来事を物語る数々の遺産にも触れることができる。
第二の展示室では第一次世界大戦(1914-1918年)、小アジア作戦(1919-1922年)、ギリシャ・イタリア戦争(1940-1941年)、ドイツ侵攻、第二次世界大戦の勃発(1939年)をテーマに、ギリシャ軍の軍服や装備品などのコレクションを見学することができる。その中には1940年から1941年にかけてのイタリアとの戦争に関する文献や写真、映像が残っており、特に印象的な展示として、イタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニとイタリア軍を揶揄した当時の面白いプロパガンダ映画も興味が惹かれる内容となっている。
ギリシャ近代化に寄与した航空機たち
ギリシャ軍で運用された航空機についてはHellenic Air Force Museum(航空情報2019年10月号掲載)への訪問がその展示数、規模において優っているが、旅行中の限られた時間を利用して、ギリシャ(空軍)で運用された代表的な航空機を見学するのであればこの博物館を訪問する事を薦めたい。
博物館の野外展示では、ギリシャ軍が様々な時代に使用した大砲や、海軍・空軍の車両、そして航空機が展示されている。
展示されている航空機は、第一大戦前の1912年に初飛行したフランスのファルマンMF-7(レプリカ)や初期ヘリコプターのベストセラーであるベルOH-13S、そしてレシプロ高等練習機の代表格であるノースアメリカンT-6Gハーバードとターボジェットを搭載したリパブリックF-84Fサンダーストリーク。全天候要撃機として開発され、航空自衛隊でも運用されたノースアメリカンF-86Dセイバーと超音速戦術戦闘機ロッキードF-104Gスターファイターたちである。
かつては英国製スピットファイアや米国製カーチスSB-2Cヘルダイバーなど大戦中の航空機展示もあったが、経年劣化も激しく、修復と保管性の高いHellenic Air Force Museumに移館されている。ここに展示されている航空機たちは戦後、ギリシャ空軍の近代化の過程で重要な役割を担った代表的な航空機が主に展示されている。
ギリシャ空軍の歴史
<創設期>
ギリシャ政府(軍)は、1911年当時、航空技術の先進国であったフランス人の航空専門家を任命し、「ヘレニック航空局」を設立したのが空軍設立の起源とされている。その後、6人のギリシャ人将校が訓練のためにフランスに派遣され、パリ近郊のエタンフェにあるファルマン航空学校を卒業。4機のファルマン型航空機も発注され、1912年9月にはギリシャ軍最初の飛行隊である「アビエーター中隊」(ギリシャ語:Λόχος Αεροπόρων)が実戦配備されている。
また、同年に勃発するバルカン戦争を通してギリシャ軍は、「偵察航空隊」や「爆撃航空隊」などを新設。新しい航空戦術も取り入れ英国、フランスや米国などの列強に遅れまいと近代化に着手することになる。
<バルカン戦争とその余波>
バルカン戦争末期の1913年1月24日にはギリシャ軍はファルマン機を使い、ダーダネルス海峡でオスマントルコ艦隊に対して初の爆弾を投下。これは、軍事史上初の空からの船舶に対する攻撃であったと記録されている。
当時、陸軍と海軍は、陸軍航空隊と海軍航空隊を別々に運用していたが、この戦争を通じ、1914年に当時の海軍司令長官であった英国のマーク・カー提督によって「ギリシャ航空部隊」が正式に設立された。ギリシャの航空部隊は「連合国」の一員として第一次世界大戦にも参加し、フランスと英国の影響を受けながらさらに近代化に向かって整備されていくこととなる。
<第二次世界大戦>
1939年9月に始まる第二次世界大戦では、イタリアのギリシャ侵攻(1940年)に伴い、1941年4月にはドイツ国防軍はイタリアの攻撃を支援するため、ギリシャに侵攻し事態は深刻化した。
ドイツのギリシャ占領により、ギリシャ空軍はカイロ(エジプト)に拠点を置く英国空軍の指揮下で3つの飛行隊が再建された。これらの飛行隊は、アブロ・アンソン、ブリストル・ブレンハイム、マーチン・バルティモアを保有する第13軽爆撃飛行隊と、ホーカー・ハリケーンI、II、スピットファイアV型を保有する335および336戦闘飛行隊であった。そしてこの飛行隊は、輸送船団哨戒、対潜水艦捜索、攻撃哨戒、偵察、攻撃、敵機の迎撃などの任務に従事し、1943年の後半にはギリシャの飛行隊はクレタ島でドイツ軍に対する攻撃に参加し大きな成果を挙げている。
<戦後の近代化>
1944年のギリシャ解放後は、左派と右派による政権争いが引き起こしたギリシャ内戦により国は大きく疲弊した。ギリシャ内戦終結(1950年11月)後、ギリシャ軍はNATO(北大西洋条約機構)批准に適応した軍の再編成を行い、国連を支援するため軍隊を朝鮮半島へ派遣(朝鮮戦争)し、スピットファイアMk IXとスピットファイアMk XVI戦闘機、カーチス社のSB2Cヘルダイバー爆撃機等で空軍の再装備を行った。
初のジェット戦闘機導入は、1955年のリパブリックF-84Gサンダージェット、そして後退翼(F型)のサンダーストリークを運用。60年代後半からはロッキードF-104Gスターファイター、ノースロップF-5フリーダムファイターなどが導入された。
70年代半ばには、ダッソーミラージュF-1CG、ヴォートA-7コルセアII(TA-7Hを含む)、マクドネル・ダグラスF-4ファントムIIの最初のバッチの納入により、ギリシャ空軍はさらに近代化を推進する。
90年代後半、ギリシャはドイツ航空宇宙産業(DASA)およびヘレニック航空宇宙産業(HAI/EAB)と共同で、39機のF-4EファントムII戦闘機の改良を決定し、F/A-18ホーネットと同様の新しいAN/APQ-65YGレーダー、新しいオンボードミッションコントロールコンピューター(MCC)、ヘッドアップディスプレイ、IFFインテロゲーター、マルチファンクションディスプレイを装備し、ファントムII戦闘機を現在も運用している。
訪問を終えて
アテネの中心・シンタグマ広場から徒歩15分(約1km)とアクセスも抜群のアテネ戦争博物館。ギリシャ軍将校ペトロ・Z・サログロスの貴重なコレクションとして18世紀の侍(さむらい)が使用した武具から14世紀の刀剣といった日本に関する資料も数多く展示され、欧州でも有数の規模を誇っている。ギリシャの歴史をひと味違った側面から学ぶきっかけとして訪れてみてはいかがだろうか。
訪問のための一般情報
War Museum / アテネ戦争博物館
住所:Vassilissis Sophias Avenue/2 Rizari Street 106 75 Athens
電話:+30 210-7252974-5-6
開館時間:11月-3月/火曜–日曜09:00 – 17:00
4月-10月/火曜-日曜09:00 – 19:00
休館日:月曜、12月25日と26日、12月31日、1月1日、5月1日、イースター
入館料:€6.-(2023年3月現在) **入場券購入は閉館の45分前まで
11月1日から3月31日までの毎月第1日曜日は入場無料。以下の日程も同様: 3月25日(建国記念日)、10月28日(建国記念日)、11月21日(ギリシャ軍記念日)、5月18日(国際博物館の日)、4月18日(国際記念物の日)、毎年9月の最後の週末(2日間のヨーロッパ遺産の日)
⬜️掲載誌:月刊航空情報 2023年7月号 せきれい社
General information for your visit
War Museum
Address: Vassilissis Sophias Avenue/2 Rizari Street 106 75 Athens
Phone: +30 210-7252974-5-6
Opening hours: November-March / Tuesday-Sunday 09:00 – 17:00
April-October/Tuesday-Sunday 09:00 – 19:00
Closed: Mondays, 25th and 26th December, 31st December, 1st January, 1st May, Easter
Admission fee: €6.- (as of March 2023) **Purchase tickets until 45 minutes before closing
Admission is free on the first Sunday of every month from November 1st to March 31st. Same for the following dates: March 25th (National Day), October 28th (National Day), November 21st (Greek Armed Forces Day), May 18th (International Museum Day), April 18th (International Monuments Day), last weekend of September each year (two European Heritage Days)
⬜️Magazine: Monthly Aireview July 2023 issue / Sequirey Ltd.
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