The Museum of Flight Restoration Center and Reserve Collection, Paine Field, Washington U.S.A.
シアトル郊外、ボーイング社エバレット工場に隣接するペインフィールド空港敷地内にあるThe Museum of Flight Restoration Center and Reserve Collection。
ここはシアトルのボーイングフィールドにある世界最大級の民間航空宇宙博物館として1965年に設立されたThe Museum of Flightで展示される前の航空機を修繕・修復するための施設である。
そこで今月は世界でも珍しい、米国製SSTボーイング2707のモックアップ機体や修復中のデ・ハビランド・コメット、そして完成間近なF2Gコルセア戦闘機などが展示されているコレクションの魅力をお伝えする。
エバレットで蘇る名機達
約23,000平米(東京ドーム1/2の広さ)の敷地を誇る同館は、1988年にオープンし、現在7機の航空機が修復中である。修復ハンガー内ではボーイング社の社員や退職者で構成された常時30名のボランティアが改修・修復作業に取り組み、機種毎に3〜5名のチームが編成され日々作業を行なっている。
現在、シアトル市内、ボーイングフィールドに隣接する”The Museum of Flight”で展示されている航空機の中で、16年の歳月を修復に費やした世界初の近代的旅客機である1933年製のボーイング247D(NC13347)、独特なT字尾翼で3発エンジンの代表的な旅客機、ボーイング727(N7001U)、5機の試作機で開発が終了した艦上超音速戦闘機、チャンス・ヴォートXF8U-lクルセイダー、そして2019年より”The Vietnam Veterans Memorial Park”に展示されているボーイングB-52G(59-2584)などもここから巣立った機体である。
20年越しのコメット修復
世界初の実用ジェット旅客機であるデ・ハビランド・コメット。第二次世界大戦中に英国で設計され、1949年にはプロトタイプが飛行し、1952年5月2日にコメット1号機が初飛行した。 現在修復中のデ・ハビランド・コメット4Cは、メキシカーナ航空初のジェットライナーとしてデリバリーされ、1960年7月4日よりメキシコシティからロサンゼルス線の定期便に投入された機体である。しかし、時期を同じにしてボーイング707やダグラスDC-8などの競合機種も主要定期路線を拡大したこともあり、速さ、快適性、先進性などの点で遅れをとったコメットは順次定期路線からその姿を消していった。
本機も就航から19年が経過した1979年7月までの時点の総飛行時間は2万7065時間に達し、また、整備上の問題もあり第一線を退くこととなった。
デ・ハビランド社で製造されてから四半世紀近い歳月が流れた1984年、放置されていた機体をエバレット・コミュニティ・カレッジで機体整備の教材機体として保管されることになった。しかし、年数が経過するうちに機体の劣化も進み安全性も担保できなくなり1990年に同館によって購入され、1995年から修復作業が始まった。以来20年に渡りボランティアの手によって修復が進められ、2015年にはコックピットを始め客室内容品も当時の輝きを取り戻すまでとなる。機体外部は、まだ未完成の部分は残る本機は復元中の航空機の中で唯一、機内に入ることができ、修復が終わった客室内を見学することが可能である。
米国SST計画の爪痕
1960年代と70年代は、世界の空は「超音速」の躍進的な進歩によって特徴付けられた時代であり、超音速旅客機の多数のプロジェクトが登場した時代でもあった。このプロジェクトの内、旧ソビエト(現ロシア)のツポレフTu-144(1968月2日に初飛行)の完成、そして英国とフランスで共同開発された超音速旅客機コンコルド(1969年3月2日初飛行)は、2003年11月に全機退役となったが、今を持っても根強い人気がある航空機であり、定期国際航空路線に就航し、また唯一量産された航空機であることは周知のとおりである。
一方、当時米国のボーイング社では1952年から超音速機(SST)の計画に取り組み、コンコルドが示した100名の乗客をマッハ2.2で飛行することを上回る250人乗り、マッハ2.7〜3.0の速度で大西洋を横断するボーイング2707の計画が進んでいた。
1963年には国産超音速輸送計画(National Supersonic Transport)推進プログラムが実行され、当時の大統領であったジョンF.ケネディによって発表された。
しかし、当時米国の議会では高高度飛行によるオゾン層減少の可能性や、空港で発生する騒音、超音速飛行時に生ずるソニックブームなど、環境に及ぼす悪影響について懸念を表明。1971年3月には上院議会は開発資金援助の停止を決定し、同年5月20日には開発計画は中止され、原型試作機は結果として完成までには到達できなかった。
その後、ボーイング2707の外観の検討や機能の確認のためにつくられたモックアップはフロリダ州へと運ばれて、スクラップ置き場に放置された。しかし、1990年以降、一部が再組立されてカリフォルニア州サンカルロスにあるヒラー航空博物館に展示され、もう一機は、当館で保管されている。
歴史的な航空機の復元
現在、同館でレストア中の航空機を紹介しておきたい。何年か後にはシアトルにあるThe Museum of Flightでも見学することは可能であると思うが、実際に修復している現場を覗くことができるのは希少な体験でもある。
パイアセッキ・ヘリコプター(Piasecki Helicopter)H-21ワークホース
1956年、創業者のフランク・パイアセッキによりヘリコプターの開発が進められ、このH-21は1949年から運用が開始された、多目的ヘリコプターであった。タンデムロータを装備したH-21は安定性にも優れ、特に低温度の環境下でも良好な性能を発揮し、山岳や海難救助を始め北極圏での救難活動にも使用された。 一方、汎用性の高さから米国の空軍や海軍でも使用され、1956年から始まるアルジェリア戦争やベトナム戦争でも兵員輸送、対地上攻撃など強襲ヘリコプターとして運用された。
日本でも航空自衛隊が救難機として10機を運用し、陸上自衛隊が研究用機材として2機を導入し、その特徴的な形状から「空飛ぶバナナ」と呼ばれた。
尚、パイアセッキ・ヘリコプターは、バートル社に社名変更され、現在はボーイング・ロタークラフト・システムズに組み込まれている。
F2G スーパーコルセア(Super Corsair)
F2G は、グッドイヤー・エアクラフト・コーポレーション社が第二次世界大戦中の1944年5月にアメリカ海軍向けに開発した艦上戦闘機である。 このF2Gは、同社がチャンス・ヴォート社から生産を請け負っていたレシプロ単発単座戦闘機F4U-1を基本に製造された機体であった。しかし、第二次世界大戦の終結とジェット機の実用化により、試作試験機(XF2G)4機、先行試作量産型(XF2G-1)が5機、量産型の陸上機型(F2G-1)が5機、ならびに艦上機型(F2G-2)が5機製造されたのみにとどまり、本格的な生産・配備はされなかった世界でも希少な航空機である。
エバレットの近くにあるペインフィールド空港周辺には、フューチャー・オブ・フライトで人気のボーイングツアーや、フライング・ヘリテージ・コレクション(同誌2021年4月号掲載)とヒストリック・フライトなどの航空博物館など車を使って巡ることが可能であり、シアトル市内の航空博物館の見学にプラスして是非、足を運んでいただきたい場所である。
訪問のための一般情報
The Museum of Flight
Restoration Center & Reserve Collection
住所 :2909 100thSt. SW Everett, WA 98204
電話 :+1-425-745-5150
開館時間 :6月–8月/火曜日から土曜日09:00 -16:00
9月–5月/火曜日、木曜日、土曜日 09:00 – 16:00
入館料 :US$5
ホームページ:https://museumofflight.org/Explore-The-Museum/Aircraft-Restoration
交通:シアトル市内でレンタカーを借りて、約1時間(40km)のドライブで到着可能。ボーイングの工場見学など見所も多く、1泊宿泊することを推奨する。
⬜️掲載誌:月刊航空情報 7月号/せきれい社
General information for your visit
The Museum of Flight
Restoration Center & Reserve Collection
Address : 2909 100thSt. SW Everett, WA 98204
Phone : +1-425-745-5150
Hours : June-August/Tuesday through Saturday 09:00 -16:00
September-May/Tuesdays, Thursdays, Saturdays 09:00 - 16:00
Admission fee: US$5
Home Page:https://museumofflight.org/Explore-The-Museum/Aircraft-Restoration
Transportation: Rent a car in Seattle and drive about 1 hour (40 km) to get there. There are many things to see and do, including a tour of the Boeing factory, and an overnight stay is recommended.
⬜️Published magazine: Monthly Aireview, July issue / Sequirey S.A.
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