Museum of Polish Military Technology, Warsaw Poland
ドイツ、そしてウクライナやベラルーシなど旧東欧諸国6カ国と国境を接するポーランド。その首都、ワルシャワには、19世紀に旧ソ連(現:ロシア、以後ソ連)軍が建設したチェルニャコフスキ要塞跡地を利用したポーランド軍事技術博物館(Muzeum Polskiej Techniki Wojskowej)がある。 この博物館は、ポーランド陸軍博物館の分館であり、本稿では第二次大戦後の冷戦期に製造され、ポーランド空軍が運用したソ連製航空機を中心に紹介する。
貴重な航空機遺産
ポーランド陸軍博物館(航空情報2021年2月号掲載)の屋外展示分館として開館した本博物館は、元来ソ連軍の要塞にポーランド軍が使用した旧式化した軍備品を1950年以降、保管用の倉庫として新たに整備し建設された場所である。
本館よりも敷地面積が広いため、多くの戦車や対空砲を始めとする陸上装備品の保管、そして航空機の保管は勿論のこと修復・修繕もこの敷地内で行われている。
航空機器に関する常設展示では、ポーランド空軍の機体と対空防衛のための機器、つまりミサイル、レーダー機器など多数が展示され自由に見学ができる。基本的に航空機の展示は屋外に限られており、戦後、冷戦期にソ連で開発されたMiG-15をライセンス生産したポーランド製のLim-2(MiG-15bis相当)やLim-5(MiG-17相当)、攻撃型のLim-6、そして前戦戦闘機スホーイSu-7、世界最大の単発複葉機アントノフAn-2や70年代に運用が開始された可変翼戦闘爆撃機MiG-23など複数機が整然と並んでいる。同一機体が複数機保管されている理由は、1機種の航空機が修復され展示できる状態にするために、複数の同一機体から使える部品を共有し、現存する部品で限りなくオリジナルに近い状態まで作りあげるためだそうである。完成した機体は、本館であるポーランド陸軍博物館にて展示され、一般公開されている。
また、もう一つの見所として、この博物館には、「1917年から現代までのポーランド空軍」と題した展示が行われている。これは、1917年から1920年にかけてのポーランド空軍の始まりと1939年のドイツ侵攻時のポーランド空軍、西部と東部戦線でのポーランド空軍のパイロットの活躍、そして第二次世界大戦後から現在までのポーランド航空の足跡を描いた数百点の歴史的資料が保管されている。新型コロナの感染拡大で展示室は一時的に閉鎖されたが、2022年3月から再開されている。
近代ポーランド空軍を担った伝説的な部隊
第二次世界大戦中、ポーランド政府崩壊に伴い母国から脱出したポーランド人の航空部隊は英国で設立された。1940年8月2日に編成された第303コシチュシコ戦闘機中隊は、同年7月1日から4カ月続いた「バトルオブブリテン」にも出撃することになる。ハリケーンやスピットファイアに乗機したポーランド人パイロット達は、1940年9月から1945年5月までの間、実に126機の撃墜記録(公認)があり、映画でも取り上げられ伝説的な存在となった。
戦後の1946年12月までに第303戦闘機中隊は解散となり、彼らの搭乗機は英国に返還された。その後、前線で活躍したパイロットと地上整備員の一部は、ポーランドに帰国し、パイロットの豊富な操縦経験からその後のポーランド空軍での戦術技術指導を含め、パイロット育成への大きな要となったことは確かである。
戦後の混乱した中、1950年までポーランドでは、第二次世界大戦で使用されたソ連製ペトリャコフPe-2急降下爆撃機、同じくツポレフTu-2双発爆撃機などを運用。またYak-18練習機を中心にジェット化されたYak-17戦闘機を運用していたが、第一線級の航空機はソ連からは供給されず、大戦中に活動したポーランド人整備員が中心となって自国生産の航空機を作る礎を築いていく。
NATO軍の影響
1951年以降、ポーランドではソ連が製造した後退翼を備えたMiG-15のライセンス生産(Lim-1)が始まった。時も朝鮮戦争(1950-1953年)勃発と重なり、当時アメリカを中心とした国連軍は、同じ低翼配置で35度の前縁後退翼を採用したノースアメリカンF-86F戦闘機を投入、その戦闘的優位性を実戦で証明したこともあり、ポーランド空軍では1953年以降、エンジンをクリーモフVK-1に換装して速度性能を高めたポーランド製Lim-2(MiG-15bis相当)の生産に踏み切ることになった。また、1955年には西ドイツの再軍備、および北大西洋条約を批准して北大西洋条約(NATO)に対抗し、同年に締結されたワルシャワ条約を持ってソ連との軍事的な協力関係を強固なものとし、ポーランドではLim-5(MiG-17F相当)、そして1964年にはLim-5の地上攻撃型としてLim-6bisが自国で生産されている。戦闘機の開発と生産は、アメリカや欧州の近代戦闘機に対抗しうる上で急速に進み、1979年以降、 MiG-23そして1989年にはMiG-29戦闘機と当時の最新鋭の戦闘機を保有するに至っている。
攻撃機についても1965年以降は,核攻撃能力を備えたスホーイSu-7BKLから前戦戦闘機として半可変翼を装備したSu-17の輸出型Su-20戦闘爆撃機,そして1984年にはSu-22が配備されていく。 一方、パイロットを養成する練習機では1952年に就航したポーランド製単発エンジンのジュナック(Junak)や改良型のTS-9ジュナック-3などが10年以上にわたり運用されていた。
しかし、旧式化したピストンエンジンの練習機だけでは近代航空戦の技量向上には限界があると判断したホーランド国防相は、1958年以降はポーランド製のセミモノコック胴体を備えたPZL TS-8バイ、そして1960年に開発された国産ジェット練習機PZL TS-11イスクラを開発し、1963年から運用を開始した。安定した飛行特性を持つイスクラは、複座の特性からエンジンを強化した軽攻撃機や偵察機としても運用され、現在も一部は現役である。
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1989年には冷戦終結に伴い東欧革命が始まり、90年代に配備されたMiG-29やスホーイSu-22は現在も一部現役として配備されている。しかしポーランドは1999年にNATO加盟し、2006年には米国製F-16が導入され、2020年に発表された32機のF-35への移行が進んでいることは記憶に新しい。ポーランド空軍の歴史および東欧とロシアの関係を学ぶ上でも非常に興味深い。機会があれば足を運んで訪ねてほしいものである。
訪問のための一般情報
Museum of Polish Military Technology
Warsaw, Poland
住所:Powsińska 13, 02-920 Warsaw
電話:+48 22 858-2212
開館日:月曜日-日曜日 10.00-18.00
入場料:個人の場合は無料
**団体の場合:10名までPLN30,11名から30名までPLN75
<1 PNL=約30円/ポーランドの通貨はズウォティ(PLN)>
交通:ワルシャワの中央駅から131番のバスに乗車(20分)、Sadybeで下車、徒歩2分。(片道バス代PNL3.40/2022年6月現在)
◻️掲載誌:月刊航空情報 9月号/せきれい社
General Information for Visiting
Museum of Polish Military Technology
Warsaw, Poland
Address: Powsińska 13, 02-920 Warsaw
Phone: +48 22 858-2212
Opening days: Monday - Sunday 10.00-18.00
Admission: free for individuals
**Groups: PLN 30 for up to 10 people, PLN 75 for 11 to 30 people
<1 PNL = approx. 30 yen / Polish currency is złoty (PLN)
Transportation: Take bus 131 from Warsaw central station (20 minutes), get off at Sadybe and walk 2 minutes. (One-way bus fare PNL3.40/as of June 2022)
◻️Published in: Monthly Aireview September issue/Sequreisha S.a.
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